第1回システム創成学学術講演会

日時: 2008年12月15日(月)〜16日(火)
場所: 15日: 東京大学工学部(本郷キャンパス)1号館15号講義室
16日: 東京大学工学部(本郷キャンパス)8号館81号講義室・502号室


システム創成学の進む道

インターネットで結ばれ増え続ける情報の種類と量。それが、現代社会の特徴であるように言われることがあります。しかし、生まれては消滅する様々な人、物、組織、自然環境は、元々社会が活動する中で結ばれ、相互作用する巨大なシステムを構築していました。

薬品に影響される人体、自動車のような機械製品、株式市場、そしてエネルギー、資源、環境問題が顕在化する地球。小さなシステムから大きなシステム まで多面的、俯瞰的視点からとらえるシステム科学を基礎として専門領域に細分化された工学知を統合し、調和のとれた革新的システムの実現。そのために、何 が必要でしょうか。

システム創成学学術講演会では、システム創成学専攻の有志による研究講演や討論を通じて、この問題に挑んでいきます。今回は、「システムが生む価 値」から「システム創成学の教育」に至るまで、具体的な研究発表を通じて掘り下げ、システム創成学の進路に光を照らすための議論を行いました。


このページは、当日配布された論文も掲載していきます(一部の論文は、著者の希望によりWeb公開しません)。

プログラム

1日目:12月15日(月)
15日午前:基調講演・特別招待講演
15日午後:チャレンジセッション
15日午後:パネル討論
15日夜:懇親会
2日目:12月16日(火)
16日午前:基盤セッション
16日午後:企画ワークショップ
16日午後:パネル討論

※下記で、各講演者の時間配分はセッションごとに調整します。

             
12月15日(月) A会場(工学部1号館15号室)
9:30〜 受け付け: A会場前
10:00〜10:15 開会のあいさつ 大橋弘忠 (東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授)  
10:15〜11:00 基調講演 吉村忍(システム創成学専攻教授) 「21世紀のシステムをどう捉えるか」(全文PDF, 講演スライドPPT)  
  どのような個人であっても、組織であっても、また人工物、専門技術であっても、それら単体で存在することは極めて少なく、周囲の環境や複数の他者との関係 性を有し「システム」を構成する。このような観点からシステム科学の重要性は論を待たない。しかし、20 世紀終盤から21世紀初頭にかけて、ある種の人工システムは、われわれの認識をはるかに超えて複雑化し、かつ社会経済的にも大きな影響を持ち始めている。 第20期の日本学術会議総合工学委員会では、「空間的ないし物理的ないし社会的広がりが巨大であり、その中に内包される多数の要素の相互関係が複雑であ り、かつその性能と信頼性が社会や経済に大きな影響を与えるシステム」を、「巨大複雑系社会経済システム」と定義し、その本質的特性の抽出を行い、その創 成力を強化するための方策について2008年6月に提言を発表した。巨大複雑系社会経済システムの創成力強化に関する議論は、2008年10月からスター トする第21期においても引き継がれる予定であるが、本講演では、システム創成学の教育研究の方向性について、この観点から議論を行う。
11:10〜12:00 特別招待講演 福田収一 (スタンフォード大学コンサルティング教授) 「限定合理性と進化するシステム」(全文PDF)  
こ れまで人工物は、合理性を基本に設計されてきた。しかし、Herbert Simonも主張したように、人間の認識能力には限界があり、また感情など非合理的な要素も判断に重要な役割を果す。したがって、これからのシステムは、 限界合理性を前提において設計する必要がある。すなわち、完全合理性を仮定すれば、一方向のシステム設計も可能であるが、限界合理性に注目すると環境、機 械とのインタラクション、コミュニケーションが不可欠となり、設計も双方向化する。それに伴い、状況への適応が最大の課題となる。したがって、システムも これからは進化するシステムへと変化すると予想される。これを人材育成の視点から考えると、従来の日本の教育は、個人の成長中心で、体系化された既存知識 の伝達に力点があり、状況、文脈変化を陽には考慮してこなかったと言えよう。一方、アメリカは、種(組織)の永続、発展を主たる目標とし、いかに激変する 状況に適応してゆくかの学習に力点がある。ますます変化が激化する状況にあって、設計、人材育成を新しい視点から再検討すべき時代となってきた。限界合理 性を前提にした設計、人材育成に関する私見を述べる。
昼休み
13:00〜15:30 A.チャレンジセッション: 価値システムの創成
司会:
青山和浩(システム創成学専攻教授)
A-1 菅野太郎 「価値創成のためのサービス認知」全文PDF
価 値を創り、運用し、受取り、感じ、さらなる新しい価値を産み出すのは人である。そこでは様々な認知活動が繰り広げられている。サービスにおけるこのような 価値のライフサイクルに関わる様々な認知活動の総称を「サービス認知」と呼ぶことする。本稿では、その主体や特徴、視点からサービス認知の分類を行い、価 値創成に重要となるであろうサービス認知項目の整理を行う。また価値創成の基盤技術となるサービス認知行動分析手法開発の取り組みについて紹介する。
A-2 竹中毅 「ライフスタイルに基づくサービス設計」全文PDF) 
現 在,サービス現場では大規模な顧客データが集められるようになってきたが,それらのデータを用いて新たなサービス設計のためには,顧客行動のモデリングが 重要な課題となっている.そこで我々は,実サービスにおける顧客データと日常行動や価値観に関するライフスタイルアンケート結果を用いて,人間行動に基づ くサービスの設計方法の確立を目指している.具体的には,ライフスタイルを考慮したサービスの社会的普及に関するマルチ・エージェントシミュレーションと 実データを用いたケーブルテレビの視聴行動予測に関する研究例を紹介する.
A-3 古賀毅 「設計・生産活動のモデリングに基づくモデル駆動型の統合DfX(Design for X)支援」全文PDF
も のづくり産業では近年,100個を越えるECU (Electronic Control Unit)を搭載する自動車の登場や,国際多拠点開発の加速に象徴されるように,製品と開発プロセスの複雑化・多領域化が顕著である.このような複雑・多 領域化した製品開発においては,部分の問題解決が必ずしも全体の改善につながらない状況が多々発生する.この結果,領域や部門を横断する設計変更が容易に できない,あるいはモジュール化に代表されるような開発プロセス全体に関わる設計思想やDfX(Design for X)戦略を反映させることが困難,といった課題が指摘される.このような課題を「システムとして」解決する仕組みを実現するため,モデル駆動型の統合 DfX支援システムの開発を提案する.設計・生産から廃棄に至る一連のエンジニアリング・ライフサイクルをモデル化し,統合モデルを中核としてモデル検証 を行いながら開発を進めることで,「ものづくりの高度化」を実現する.このために,製品や生産プロセスが持つシステムとしての挙動・機能を,開発の上流工 程から明示的に記述・共有し,情報を一元管理し,多段階で整合性を確保することが可能な手法を示す.
A-4 大武美保子 「ほのぼの研究所の開設:高齢社会のサービスイノベーション」全文PDF
2008 年7月、高齢社会の諸問題、特に認知症に関する諸問題を解決する科学技術社会システムについて研究し、全世代にとって暮らしやすく生きがいのある「ほのぼ の社会」の実現に寄与することを目的とするNPO法人「ほのぼの研究所」が、開設されました。代表理事・所長を務める発表者が、設立の趣旨と、具体的な取 り組みについてご紹介します。
A-5 大澤幸生 「価値のセンサは創れるか?」全文PDF
隠 れたチャンス、埋もれている知識を獲得するためには、データ可視化ツールとこれを用いるための人間の能力のシナジーが重要となる。意思決定にとって重要な 事象・状況(チャンス)及びこれらについての情報を発見しようとする「チャンス発見学」から、現在は、人が身の回りの事物が自分にとって持つ意味づけ感じ 取るバリューセンシング能力を高める技法開発へと展開している。この講演では、バリューセンシング研究における認知科学と情報技術という両輪の展開を紹介 する。人間が主役となる複雑なシステムのデザインに新しいバリュー(価値観)を吹き込むための、KeyGraphによるデータ可視化やデータ結晶化などの 技術的アプローチから、イノベーションゲーム・アナロジーゲームという社会的創造性を引き出す遊びへの研究の展開を話す。
休憩
15:45-17:30 パネル討論会「サービスシステムをどう創るか」
司会:
大澤幸生(システム創成学専攻 准教授)
  パネリスト: 古田一雄(ポジションPDF)・ 青山和浩ポジションPDF)・ 大武美保子・(ポジションPDF古賀毅ポジションPDF
  ・なぜサービスに「システム創成」が必要なのか
   ・30年後の人々まで行き渡るサービスとは
18:00 懇親会 工学部8号館324号室(要申込・費用は参加者のみ当日受付で一般2000円, 学生1000円をお支払い下さい)

                                   
12月16日(火) B会場(工学部8号館81号室)
10:00〜12:00 B. 基盤セッション:人・社会システム創成のソリューションテクノロジー  
司会: 橋本康弘(システム創成学専攻講師)
B-1 村山英晶 「光ファイバセンサが拓く新たな安全・防災システム」
光 ファイバによる通信技術の発達は目覚ましく、現在では通信システムの基幹を担い、またFTTH(Fiber To The Home)に代表されるように各家庭までのアクセス回線にもその技術が活用されている。一方で、光ファイバはセンサにも利用可能であり、従来の電気センサ にはない様々な優位性、特徴を持っている。これらのセンサは信頼性向上のために構造物やプラント設備のモニタリングなどに利用されている。光ファイバの特 徴をより積極的に活用すれば、ネットワーク化された光ファイバセンサ網により、従来技術では困難だった広範な、また高密度なモニタリングが可能となり、新 しい防災・安全システムの形やサービスを見出すことができると考えている。最新の光ファイバセンシング技術の概略を紹介し、防災・安全システムへの新しい 可能性と課題について話す。
B-2 文屋信太郎・吉村忍・藤井秀樹 「知的マルチエージェント交通流シミュレータMATESによる仮想社会実験」全文PDF
多数の多様な人間と人工物の相互作用が主役となる社会現象を定量的にシミュレーションする目的で、知的マルチエージェントシミュレーションに関する研究を行っており、その具体的な実践事例として交通流シミュレータ MATESを開発中である。本講演では、MATESの理論・アルゴリズム・実装法の主要点を解説するとともに、それを用いた交通社会実験について紹介し、知的マルチエージェントモデルの社会シミュレータとしての可能性を議論する。
B-3 陳 c 「マイノリティ・ゲームによる金融市場のモデル化の進展」
本 講演では、金融市場のマルチエージェントモデルの1つであるマイノリティ・ゲームの発展をレビューし、その最新進展に関する3つの報告を行う。1つは多様 の選好を持つエージェントの導入による不均一的な分布をもつ有限資源の効率利用についての内容で、もう1つは金融市場の価格変動の統計特性 (Stylized Facts)を再現できるGCMGモデル(マイノリティ・ゲームの拡張モデル)の相構造の研究内容である。最後に、マイノリティ・ゲームの応用として、マ ルチエージェントシミュレーションによる新しい取引税制(Tobin Tax)の導入効果の検討を紹介し、金融市場における新しい解析手法の有用性を示す。
B-4 丹羽 隆 「ビジネステンプレートを活用したビジネスプラットフォーム構築環境」全文PDF
現 状では、製品開発やサービスに関する業務を対象としたプロセスのモデリング・シミュレーションの環境が整備されつつある。本研究では、この環境を拡張する ことで、製品やサービスに関するライフサイクルプロセス、ユーザプロセス、業務プロセス、社会プロセスなど様々なプロセスを総合的に捉え、継続的に現状の プロセスを記述し分析し評価し改善していくことが可能である組織体系の実現を目標とする。そのために、まず、これらプロセスに見られる「物の流れ」と「情 報の流れ」に着目したビジネスのプラットフォームとテンプレートを定義する。ビジネスプラットフォームは、継続的なプロセスマネジメントを目的とした、現 状プロセスの分析、評価、改善のサイクルを円滑に実行可能とすることを目指す。一方、ビジネステンプレートは、新規ビジネスに対応した迅速なプロセスの実 現への貢献を目指す。ビジネスプラットフォームを各組織のプラットフォームとすることで、既存のビジネステンプレートの導入および導入前の客観的評価が可 能となる。さらに、組織間のプロセス連携に関しても、モデル上での検証が実現可能となることが期待される。
12月16日(火) C会場(502号室)
10:00〜12:00 C. 基盤セッション「システム創成時代のフィジカルテクノロジー」  
司会: 奥田 洋司(人工物研究センター教授)
C-1 伊藤広貴柳裕一朗越塚誠一酒井幹夫 「粒子法の産業応用に向けた研究」論文1のPDF) (論文2のPDF
産 業応用を目指した粒子法シミュレーションの研究を紹介する。第1の例として、肺がんの放射線治療計画を支援するために呼吸による肺がんの動きを粒子法に よってシミュレーションできるようにする研究を述べる。ここで、医用画像にもとづいて胸部の計算モデルを作成し、肺は柔らかい弾性体として計算する。第2 の例として、近年開発された粒子法による混相流解析手法について述べる。固気混相流や自由液面を含む固液混相流について、これまで、大規模な体系における 固体粒子の挙動を精度良く評価することができなかったが、これを解決する方法を提案する。
C-2 羽柴公博・雷鳴・ 大久保誠介福井勝則 「岩盤の長期挙動と地下構造物の長期利用」論文のPDF
地 下構造物は地上の構造物に比べて,建設中の計画の変更や使用途中での作り直しなどが難しく,また使用後に寿命がきたからといって放置することも認められに くい.そのため,地下構造物は事前に十分慎重に計画して建設する必要があり,建設後はできるだけ長期間にわたって使用することが前提となる.例えば,トン ネルなどでは数百年,放射性廃棄物の地層処分施設では数千年から数万年の使用が前提となるであろう.このような長期間の岩盤の挙動を予測・評価するために は,鉱山学や土木工学だけでなく地質学や地球物理学などの手法や知見も必要となる.また,経済性や環境への負荷なども考慮する必要があろう.本稿では,工 学と他の分野との融合という点に着目して,当研究室が取り組んでいる課題について紹介する.
C-3 北岡雅則長谷川秀一 「イオントラップを用いた量子シミュレーションに向けて」
古 典的な情報理論に量子力学を導入することで全く新しい情報理論体系である量子情報理論が生まれつつある.つまり,古典情報理論は新たな知を創造するための 基盤を成しているが,そこに量子的な考えを組み合わせることによって作りあげられる量子情報理論は,新たな知の基盤を作りだそうとしている.そのうちの一 つである量子コンピュータは複合的な先端知デザインによって初めて実現可能となる技術である.実用的には,量子コンピュータはスーパーコンピュータを凌駕 する能力を発揮する可能性を秘めており,イオントラップを用いた量子コンピュータは最も有望である.イオントラップ装置にトラップされた冷却イオンを用い ることで外界から隔離された理想的な量子状態を作りだすことができ,これにより効率的に量子物理系をシミュレーションすることができる.我々は,特に2 次元クーロン結晶とpushing gateを利用した量子シミュレーションの実現を目指しており,実現に必要なレーザ装置とトラップ装置の開発を行っている.講演では,イオントラップを用 いた量子シミュレーションに関連する研究と開発の現状について紹介する.
C-4 定木淳 「制約付き離散時間最適制御の内点法による解法とボイラー切り替え」
線 形不等式制約付き離散時間最適制御の内点法による解法を、凸二次制約および半正定値制約に適用できるように拡張した。収束するまで繰り返しリカッチ方程式 を解くことにより最適制御を計算できる。切り替え台数制御の緩和問題への応用として、小型貫流型ボイラーを取り上げる。小型貫流型ボイラーは、低コスト、 取り扱い資格が不要、速い立ち上がり時間、などの長所があるが、連続制御ができない。ペトリネットを用いて小型貫流型ボイラーをモデル化し、0-1整数計 画法として定式化した。
休憩
12月16日 13:00-15:30 企画ワークショップ(2件)
W-1(B会場): D.WS1 システム創成のためのリスク発見テクノロジー(企画: 古田一雄
WS1のプログラムはこちらです (論文も閲覧できます)
大規模複雑システムに潜むリスク要因を発見するための方法論を、モデルからのリスク発見、生命規範からのリスク発見、経験からのリスク発見、シナリオ共創によるリスク発見の4つのアプローチにより展開します。
W-2(C会場): E. WS2 システム創成学を創るイノベーションゲーム(企画: 大澤研究室一同)
WS2のプログラムはこちらです
新 しい技術やサービスのアイデアを考案し、これを市場に出してゆくことは、魅力的で楽しい作業です。しかし、そのアイデアが市場に受け入れられるようにする ためには、市場を知り、顧客の欲求を感じて考案したアイデアでなければなりません。既存の技術や商品を改善、結合して新たなアイデアを作り出すためには、 人間はアナロジー思考力や組み合わせイノベーション思考力を発揮しなければなりません。イノベーションゲームは、これらの「考える力」を評価し開発する ゲームです。ここでは、システム創成学専攻の様々な研究を組み合わせて、どんな未来が見えるか遊びながら考えてみましょう。
12月16日 15:50-17:30 パネル討論会「システム創成のスキルとは?」
司会:
吉村忍(システム創成学専攻 教授)
  パネリスト: 河口洋一郎・    奥田洋(ポジションPDF)・    福井勝則・    川村隆文・    橋本康弘(ポジションPDF)   
  ・システムを創成する能力とは何か
   ・その能力をいかに育てるか、いかに身につけるか